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2024

  二〇二四年一月

 
或る日の朝  
 

ほとおりの凍れる朝の淋しさのほむらのごときマフラーを巻く

くちなわのあが古里の坍を這いくねるひはひでいつわれるひと

磨きつつ何をばえるバールーフ・デ・スピノーザの碧きあさ寒

もなしに透度ゆたけし脳髄は硝子の函――の孕める卵

路地裏に椿のえまうこよなさに賓客まれびとのあとう時は

午后  

銀紙を海にたてし午后三時置かれまほしき菓子の透明

われわれは完全人のかたわれぞアンドロギュノスのすえを夢む

楽の音も樋を流るる糸の根とnocturnalistの予型論

みちに何も映ぜぬ鏡あり双面神のかおの夕暮

不死鳥のはねを拾いきむつみ月わが涙さえ毒と

  二〇二四年二月

静物  

卓上にならべし骨の眼の虚ろ人工洞窟グロッタと洞洞たりき

甕星の白き光のほのみえて有翼の蛇ゆるるかに堕つ

をんなてふ體溫計を插し入る夜 不氣味なるものあまたえをり

媾婚星よばいぼし青く耀かがよ夕星ゆうづつの空に無かりき火船の聲す

手鏡の裏にひそめるかおに塗られしあかやがかわかむ

 
薄氷  
 

水深もほとんど零にほど近き行潦にわたづみきみゆきげ月

きみうかぶにふさう小さ膜うち破る日のうら悲しけむ

水銀のごとき円盤けり豫言者どものはしまどしき

ひいときもやがては喪に服しと残酷のおもかげは窓

円環をめぐる言葉の迷宮にわれ伝霊神プシュコポンポス

雑詠  

處女おとめのこもゆきげ月 りゆく凍蝶のての黒

  二〇二四年三月

星辰界  

わたくしの平方イコールきみなりしとき星辰の熱をし佩びけむ

星月夜――迷宮学の線を曳きわれなるものの出口ふさがる

パトグラフィーの教本にしるされしわれらが父の聲をめぐらむ

曐曐ほしぼしを戴冠せらる三日月のたるる杖の御稜威みいつほろびき

窓のに淋しさどちの感嘆符春をしらせに急ぐ夜を聴く

客室  

みなそこへ落とせるわれの水筒のかろきもをかしそこにし着きぬ

きみの乗る舟の淋しききみくらき流れのさきわれ

Iと謂うおんなの名をば両三度唱えて寒し客室の夕

きみのひかりは四方よもに放電しメレンコリアの背景なりき

骨ばった手のつめたさを冽たさとりし日の窓ひびわれてあり

雑詠  

hauntologistたちの棲む街へ徃き、余に憑きしものの正体を知る

  二〇二四年四月

星室  

わたくしとささやくたびに隠れゆく塋域おくつきへあす眠るらし

聖殿みあらかめぐる景色を借る窓にうつれる顔のどおきを

ほしの間にひとりちたる裁きの日斎庭ゆにわを飛びし蝙蝠のくろ

涕貌いやがおみつめしひとの聲色も玻璃ガラスにうつるかげのこれる

わたくしのむくろみて踊る〈死〉のポスト・フェストゥムはしのさび色

  二〇二四年六月

玄室  

八つ裂きにされてしまえばわがおやかおもなつかしあつめつつ

われひとりなかよりしとお退きてくらきひとてふ罵詈をこそ愛で

きみの住むヘルモポリスへかまほし真砂も睡る夜の寂けさ

星あかりひとつだになきかえに不二なる神は祀らざりけり

玄室をけて出る夜にもの想うくらく皺める反–世界アンチクトン

  二〇二四年七月

述語  

大理石なめいしきみはだえ紋様あやめにも土星のひかりしづかに射りぬ

ぼくなりぬきみなるものの述語たる敷布シーツなる大海おおわだあさ

都府まちつ夕昏のあかが脚の歩みに合わせぼくをしけよ

影どもの洞窟に住み風のむ夜をてるの手なも淋しき

手の生えて脚の生えてし暗闇の床へとりぬ軀瘟みえやみは来ぬ

月夜峰第一橋  

水門の中を歩きし月天下鬱悒メランコリアなる処世術

蔭森の奥なる両人ふたり火串戯ひあそびに夢中になりきオルフェのこえ

湖の底にし影の映るときサトゥルナリアへ遅刻して

環状の迷路をしたり両人ふたりきり卵のごと寥廓そらが割れゆく

アー、あわれなる感情の析出物を何と云う?――あるいは塩、あるいは窓。

月夜峰第二橋  

余りにも明るき街の底に燃え死にながら輝ける車に

傷へこそ合わせて生まるひとの子の痛みをおも黎明しののめの緋

明るみに出でてしこええゆく先の嬥歌かがいのさなか

曐羣ほしむらしたたりちて朝霧さぎりつアフロディーテの覆布シーツの微薫

月の水さやかに流れもとげるものはひとなれば

  二〇二四年十月

  述語Ⅱ

姿見に映りしものをそしの嘲り笑うははかお

はるかなるカンブリアさえ待ち合えず逝く軟性の熱ぞ佩びたき

插架せよきみのし病めるきみだけの眠りのなかに彳める死を

捩じくれた石碑いしに刻める暗号のあたりを歩める夜の淋しき

文字盤の上をめぐ駆動霊アニマどち天地創造論コスモゴニー无き時を偲びぬ

  反宿命論への再反駁

宿命をいなめるさきに工作者待ち侘びてあれ粛粛さめざめと泣け

きみる会話のうらの聞きなれぬ異国えびすことばつぎつぎと

すべてきみ――きみいなす古言ふること再複羊皮紙写本パランプセストなりき此の生

兇刃をてる学徒らにわに来て地母神はふる日のエリウゲナ

よりましの証憑なりき光環をわがせにやりてひとりをとじぬ

  雑詠

ダン氏ジョン黄金きんいろの円描くとき秋めく夕の形而上学メタフィジックス

無によりて円環閉じし神学者けざやき晩に神化テオーシスせゆ

星と星とのあいだになもくらむものありとう南蛮渡来の心的外傷トラウマ

知恵熱を出して眠れる子らのぬかやわに撫でんか無名なるきみ

疇昔そのかみみし街など訪ね来て日暮れのちかさ不意に知るらん

  ヘルメス都市

ヘルメスの石なき街に棲まいせるつき草いし日のclinamem

がらがらとプラトン立体を詰めしはこもてはしる星学の夕

街ぐるみ石となりせばヘルメスへささぐ墓廟の淋しさまろ

クルツィウス読みふける夜に居合わさぬきみ聲聲こえごえlocus amoenus

酔い心地ニュートン記念堂で待ち合わす星見の子らのmoonshine